野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

チームを描くチームワークの妙 ~黄金を抱いて翔べ~

河原尚子 「茶」が在る景色

演じる

小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

闇の高炉

ミホシ 空間と耽美

手摺とメイド

インタビュー 玉井恵里子 さん

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

わいらしさを持つ大人の空間をテーマに、デザイン性の高い空間やライフスタイルを提案するインテリアデザイナー、玉井恵里子さん。彼女に、最近のプロジェクトや、デザインの世界へ興味を持ったきっかけなどについてうかがった。

-------最近ご発表された空間デザインについてうかがいます。10月末、淀屋橋ガスビルのショールームで『Girls' Kitchen Renovation(ガールズ・キッチン・リノベーション)』の展示がありましたね。
玉井: 『LIVING & DESIGN すまいと暮らしのリノベーション』シティ会場の一つとして、大阪ガスさんが展示会を主催されたのですが、山納洋さんからご紹介いただいたことがきっかけになり、その会場設計と展示を担当しました。フラムテラスという、大阪ガス本社の1階にある、普段はカフェで利用されている場所が会場でした。そこを全面的にブースにして作りこんだのです。これまでの大阪ガスさんではあまりみられなかったような「ガールズ」なイメージを持ちこんだ感じです。

------どのようなコンセプトでつくられましたか?
玉井: 3つのコンセプトがあり、まずは「ドリームキッチン」。いつか郊外にこんな家・キッチンをつくってみたいというイメージで、樹齢100年を超えるクリの無垢材をテーブルの天板にしています。自然を家に持とう、というコンセプトですね。
 それから、「モバイルワークスペース」。大阪ガスの社員さんと話をしたときに、「キッチンをみながら寝るのは何となく悲しい」というご意見があったのです。そこで、仕切りにもなる、屋台のようなモバイル型キッチンを作りました。
 3つ目は、「Do It Myself ワークショップキッチン」です。女性がワンルームマンションなどの賃貸住宅に住んだとき、釘打ち厳禁、(退去時には)原状復帰という壁にぶつかります。これをデザインで解決していかないといけないということで、ルールに従ってどこまでできるのかを考えました。東急ハンズとホームセンターで買える材料に限定して、マスキングテープで非常にカラフルに仕上げています。

------今年は、日本の「かわいい」雑貨をフランス・パリのマレ地区に持ちこんでの展覧会も開催されました。『l'exposition Kawaii Zakka ?entre kawaii et kawaikunai?(Kawaii Zakka展覧会 ~カワイイとカワイクナイの間~)』について教えてください。
玉井: もともと大阪市が企画・募集をしていた、アーティストの人材交換事業がきっかけです。私たちのタピエスタイルでは、雑貨を制作している作家さんを紹介しているのですが、ちょうど語学が堪能なスタッフ石山暁がいます。そこで、デザインするだけじゃなく、それをサポートするという立場からエントリーして、1位で通ったのです。
 関西にいるアーティストやクリエイター9人の制作した雑貨を展示するという展覧会を、パリのマレ地区で企画しました。わたしは日本にいながら広報などをサポートしましたが、フランスの全国紙『Le Monde』や日本の『装苑』に掲載されたりして一定の経済効果も生むことができましたし、作家さんたちと一緒に「de sign de>」で帰国展もさせていただきました。

------現地では、日本とは違った反応もありましたか?
玉井: 日本だと、「かわいい」の一言だけで、物を見てもらえれば十分ということが多いんですね。語らずとも奥にあるものまで直感的に感じてしまえる民族ということだとおもいます。これに対して、ヨーロッパの人たちはコンセプトを求めるんです。どういう理由でかわいいのか、という明確なロジックが必要になります。哲学のようなものに興味を持たれるので、そういった文章も用意して、広報や説明をしました。パリにはファッションとデザイン専門の副市長がおられるんですが、その副市長も来てくださって、考え方が分かり易くて面白かったと言ってもらえました。ロジックの明快さなども大事なのかな、と改めて感じました。

------デザインの仕事へ進まれたきっかけは何でしたか?
玉井: わたしは京都生まれなのですが、下宿やゲストハウスをやっていた両親が、外国人のお客さんも非常に好きだったんですね。海外の方が入れ代わり立ち代わりやってくる環境でした。普通の日本家屋だったのですが、その住宅が、来る人によってまったく違うもののようになってしまうんです。たとえ1年しか住んでなくても、ものすごく素敵なお家にして、前よりもきれいにして帰ってしまう。そういう経験から、ひとの暮らしぶりというものに興味を持ちました。
 それと、小さい頃から日本画を習っていたんです。でも、絵ではなかなか食べていけないな、と分かりまして(笑)。「綺麗なものが好き」ということを活かせるような場所を探して、イタリア家具メーカーのアルフレックスに入りました。アルフレックスでインテリアのことを学ばせてもらって、独立してインテリアのコーディネートを手がけるようになりました。そこから声をかけてもらう機会が増えていろいろと広がっていって、インテリア以外のデザインやプロデュースもするようになっていったんです。

------関西の好きなところを教えてください。
玉井: 京都生まれですが、大阪の開放的でラテン系のようなノリが好きで、わたしのマインドは大阪にある気がします。京都は閉鎖的な土地という印象だったのですが、最近は、海外で歴史あるもの、古いものを求められるようになって、京都のよさを再発見しました。自分の拠り所を「京都」と「大阪」で都合よく使い分けてるみたいで嫌、って言われたりすることもあるけれど(笑)、どちらも本当のことなんです。離れた場所で仕事をすることも多いですが、関西には常に会いたい人がいて、人に魅力がある街という気がします。

------今後の活動予定やビジョンを教えてください。
玉井: 近いところでは、東京に本社を置く株式会社イデアインターナショナルと、にんぎょう作家IRIIRI、株式会社タピエの3者が共同開発した『KUCHI-PAKUアニマルスピーカー』が12月上旬に全国発売になる予定です。ハンドメイドの特徴を生かした初のプロダクト商品化プロジェクトで、IRIIRIは展覧会「KAWAII ZAKKA」をきっかけにしパリでも人気を集めています。
 わたしは「ブリコラージュ」とか「ボーダレス」といったことにいつも惹かれています。多くの事に興味がありますが、特に海外の国々の生活文化からインスピレーションを得て学ばせて頂いたことに感謝しています。これからは海外の人々にも「日本の素敵な体験」を通じて、少しずつお礼をしていけたらと思います。具体的には「展覧会」や日本文化に興味を持つクリエイターのサポートでしょうか。
 また、わたしは人々が見過ごしがちな事柄、忘れてしまったものに「あたらしい価値」を見出し魅力的に生まれ変わらせる事ができた時、一番の喜びを感じます。そういったことがデザインに反映できる仕事も多くなってきました。デザイナーとしてはこれからも固まらず「しなやかな」存在でありたいと思っています。



2012年10月20日 大阪にて

『LIVING & DESIGN すまいと暮らしのリノベーション』シティ会場
大阪ガス 『Girls' Kitchen Renovation」展示 2012
撮影/下村康典
 
『LIVING & DESIGN すまいと暮らしのリノベーション』シティ会場
大阪ガス 『Girls' Kitchen Renovation」展示 2012
撮影/下村康典
 
フランス・パリ、マレ地区のギャラリー「Kawaii Zakka 」展覧会場 2012
 
大阪 中之島 de sign de> 「Kawaii Zakka 」帰国展 パンフレット 2012
グラフィックデザイン/サファリ
 
ZAKKAな大阪―かわいい発見ガイドブック
西日本出版社、2008年 監修:玉井恵里子
 
玉井 恵里子(たまい えりこ)
京都生まれ。インテリアデザイナー。株式会社タピエ代表。
アルフレックスジャパンより独立し東京、大阪に「タピエ」設立。個人邸・ゲストハウス・寺社建築などデザインコンシャスなライフスタイルを提案している。京都の伝統工芸職人とのコラボレーションプロダクトをミラノサローネで発表。京都工芸繊維大学博士課程在籍 カーテンの房飾り『パセメンテール』研究。
Best Design Osaka インテリアコーディネート部門賞受賞。代表作 大宮東光寺涅槃堂(2011年竣工)。

チームを描くチームワークの妙 ~黄金を抱いて翔べ~

あ、私だ。「ケイパー」という英単語をご存知だろうか。そもそもは「飛んだり跳ねたり」を意味する言葉だが、アメリカだと犯罪、それも組織的な強盗行為を指す。アプローチが極めて困難な場所にある「お宝」を、複数の手練たちが徒党を組み、綿密な計画に基づいて狙う。賢明な読者なら、こういう条件から反射的に映画作品のタイトルが思い浮かぶかもしれない。『現金に体を張れ』(1956年)や『オーシャンズ11』(2001年)などなど。イタリアびいきの私の場合は、ルパン三世にも影響を与えた『黄金の七人』(1965年)と、フィアットの城下町トリノをミニが駆け巡る『ミニミニ大作戦』(1969年)がその筆頭だ。ところが、どうだろう。ここで日本映画が挙がる人は少ないのではなかろうか。深作監督の『いつかギラギラする日』(1992年)などはそうかもしれないが、たとえば今世紀に入ってからだと、とんと聞かない。そんな「チーム強奪暗黒時代」にまばゆい黄金の光を照射するのが、井筒和幸である。
 原作は監督と同世代の高村薫が日本推理サスペンス大賞を受賞した、1990年発表のデビュー作。スリリングな展開と臨場感のある演出を実現するスタッフに、豪華すぎるキャスト。まさに、ケイパームービーの製作に適ったチームの結成である。寄る辺ない孤独や苛立ちを抱えた6人の男たちが、ただ「獲物」からもたらされる結束によって、240億円相当の金塊を狙う。
 時代は現在に移され、北大阪でのロケが多用されている。冒頭は梅田の地下街での徒歩によるチェイス。ごった返す人と入り組む通路に、いきなり目を奪われ息を呑む。高村から「焦げるような土地の暑さ」を表現してほしいと指示された井筒組は、原作をもとに物語地図を作成して、実際に街を歩き回るシナリオハンティングを敢行して映画版の細部を補強していった。主人公たる大阪の町が脚本へのアドバイスをくれた格好だ。キャストやスタッフには、この犯罪計画を撮影するにあたっての専門用語集や、登場人物たちの実際には描かれないところまで含めた人生の履歴、さらには、吹田の阪急沿線やキタ、中之島、アメリカ村といった舞台となる土地の解説などが掲載されたガイドブックが配られたという。水辺やそこに架かる橋を頻繁にフィルムに写しこみ、危うさと無常感を漂わせることに成功しているのも、こうした苦労の成果と言えるだろう。
 周到な下準備とチームワークで表現された、豪快で痛快で、やがて哀しき犯罪劇。焦げるような大阪に、胸を焦がせ。こだわりぬかれた細部をチームで語りたくなるはずだ。

『黄金を抱いて翔べ』
井筒和幸監督作品
妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)、西田敏行
2012年/129分


野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ。翻訳家
FM802でROCK KIDS 802(毎週月曜日21-24時)を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。

演じる

「茶」とは、「演じる」ことでもある。
滋賀で開催された BIWAKOビエンナーレの茶会に
お手伝いとして参加した。

新内節の音色に合わせての茶会。
お手伝いのオファーは「情念のこもった女性」

私は髪の毛を振り乱したような半ば般若のような格好をして
茶会にのぞんだ。

今日に至るまでに、気持ちを盛り上げるために聞いた
ベルリオーズの幻想交響曲。
悲恋を題材にした曲が、よかったのかもしれない。
種類はちがえど、新内の音色に
ぐぐーっと入って行けるものがあった。

-茶会の為の役作り-

音とともに余韻を残して終わったその茶席は、
劇ではなく、やはり「茶」であった。

「茶」というものは舞台ではない。
そこはステージではないし、一方通行の演劇ではない。

やはり、客がいて、亭主がいる。もてなしの場。
だけど、その人と人との間に茶があり、空気がある。
それは、普段のコミュニケーションの中で
双方がどちらに重きを置いて会話をするか、
ということにも似ている気がする。

河原尚子(かわはら・しょうこ)
陶磁器デザイナー/陶板画作家
京都にて窯元「真葛焼」に生まれる。
佐賀有田での修行を経て陶板画家として活動を開始。
2009年、Springshow Co.,Ltdを設立。同年、陶磁器ブランド「sione」を発表。

闇の高炉

闇の中の高炉はシルエットだけでも強い存在感を放つ。細かい質感を闇に隠された様子は昼間の気高い感じとは打って変わり、恐怖心を煽るような威圧した姿になる。ひときわ目立つ青い炎は冷たい印象を付け加える。
 船上より撮影。日没後、揺れる船上での撮影は三脚を使えないので非常に難しいが、最近のデジタルカメラは性能がいいので、気合を入れたら何とか撮れる。数年後には気合を入れないでも撮れるカメラが出ているだろう。

小林哲朗(こばやし・てつろう)
写真家
廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。

手摺とメイド

摺は艶があり、かつ滑らかな触り心地が好きである。


あのメイドはどうしたことだろう。手摺の柱に括りつけられている。
粗相でもしたか…主人に仕置きをされているのだろう。

ここの手摺は私好みだった。そしてそこには艶のある黒髪の若いメイド。
私は酷く主人が羨ましくなり、あの手摺に触れてみたくなる。

いけませんよ。
後ろで私を諫める声がした。

ミホシ
イラストレーター
岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。
抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。

第1回

 講談師
 旭堂南陽

第2回

 フォトグラファー
 東野翠れん

第3回

 同時通訳者
 関谷英里子

第4回

 働き方研究家
 西村佳哲

第5回

 編集者
 藤本智士

第6回

 日常編集家
 アサダワタル

第7回

 建築家ユニット
 studio velocity

第8回

 劇作家/小説家
 本谷有希子

第9回

 アーティスト
 林ナツミ

第10回

 プロデューサー
 山納洋

第11回

 インテリアデザイナー
 玉井恵里子

第12回

 ライティングデザイナー
 家元あき

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

連載2: 河原尚子 「茶」が在る景色

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

連載4: ミホシ 空間と耽美

第1回

 建築家
 藤本壮介

第2回

 書容設計家
 羽良多平吉

第3回

 漫画家
 羽海野チカ

第4回

 小説家
 有川浩

第5回

 作庭家
 小川勝章

第6回

 宇宙飛行士
 山崎直子

第7回

 都市計画家
 佐藤滋

第8回

 作家
 小林エリカ

第9回

 歌手
 クレモンティーヌ

第10回

 建築史家
 橋爪紳也

第11回

 女優
 藤谷文子

第12回

 ラッパー
 ガクエムシー

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

連載2: 澤村斉美 12の季節のための短歌

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美