野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

ヴァンパイアの食糧倉庫 ~フライトナイト 恐怖の夜~

河原尚子 「茶」が在る景色

茶が在る

小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

留置場の落書き

ミホシ 空間と耽美

椿姫と柱

インタビュー 旭堂南陽 氏

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

ルトガル語や英語での講談、和洋を融合した『ジャズ講談』など、新境地を開拓しつづける講談師、旭堂南陽氏。彼に、講談との出会いやその可能性についてうかがった。

------まずは「講談」がどんなものかについて教えていただけますでしょうか。
南陽: 諸説ありますが、400~500年前から始まったと言われていて、もともとは「歴史語り」でした。人間の生き方や昔の殿様の戦いぶりなどの話をしたわけです。物事を分かり易く教えるのが講談の原点だったわけですが、いつしか、講談そのものが面白いからということでエンターテインメントになっていきました。

------よく落語と比較されると思いますが?
南陽: そうですね。落語では会話中心ですが、講談では地の文が中心になります。たとえば、講談で「彼が呼ばれて2階にトントントンと上がっていって」といった説明があるとします。落語であれば、上から呼びかけるような「お~い、上がってこいよ」といったセリフで表現するでしょうね。落語ではストーリーにあまり意味がなくても笑える場合もありますが、講談は基本的に笑わせるのが目的ではなく、ストーリーそのものを重視しています。内容はバラエティ豊かで、怪談から笑える話まで網羅しています。

------最近の講談界では女性も多いですね。
南陽: 将来的には女性が9割くらいになるかもしれませんね。東京のほうでは若手はほぼ100%女性ですし、弟子入りの流れや楽屋の雰囲気など、女性がますます増える環境ができつつあります。関西ではまだ男性が多いですが、それもここ10年くらいで変わるんじゃないでしょうか。ほかの伝統芸能とちがって、女性に対して敷居も高くありません。

------海外での講談についてうかがいます。ブラジルではポルトガル語で、アメリカでは英語で講談をされていますが、こういう場合には、どういった読み物をされたのでしょうか?日本でされているネタをそのまま現地語で?あるいは、現地のことを扱ったネタを作られたのでしょうか?
南陽: アメリカではジョン万次郎を題材にした新作の読み物をしました。ジョン万次郎に関連するイベントだったので、彼のことを知っている参加者がほとんどだったからです。ブラジルでは日本の古典の読み物をそのままポルトガル語化しました。当時はブラジルのことをそれほど知らなかったからです(笑)。講談ではお客さんの「前提知識」を意識しないといけないので、古典の講談は結構大変です。
 落語との違いでもあるんですが、たとえば落語では主人公は匿名ではっきりしていないですし、笑いは全世界共通のところがあります。落語で有名な『時うどん』という話。ある客が勘定を数えて「一、二、三、…、七、八、今何時?」店主が「九つです」と言うとそこから続きを数えて「十、十一、…」となり、客がまんまと得をする。ところがマネをした別の客は、時間が早かったので店主が下の数字を言ってしまい、損をするという話です。海外であれば、これをその土地の食材、ピザにするなどアレンジが可能になりますよね。
 それに対して講談の場合は主人公がはっきりしている話がほとんどで、お客さんの前提知識に頼る部分があります。たとえば真田幸村が勇猛果敢であったとか、豊臣秀吉が年を取ってから朝鮮出兵した、といった事柄についてある程度知っていることが前提になります。ですから、海外のように日本のできごとに対する前提知識があまり期待できない場所で古典の読み物というのは大変でした。

------ジョン万次郎のほうは新作だったということですが、講談では新作というのは多いのでしょうか?
南陽: じつは講談では、新作のほうが多いんです。何年何月何日に誰それが何をした、といった歴史上の話は数多く残っています。ただ、それらをつなぐ過程の記録はありません。関連することを調べたり、勝手に想像したりして、次の事実につながる一番面白い内容をつくりだしていくのが講談師です。「講談師、見てきたような嘘を言い」という言葉もありますが、講談師が話す内容は基本的には作り物です。
 結婚式での講談、いわゆる「馴れ初め講談」というのがあります。新郎新婦にインタビューをして作りますが、誇張もありますので、講談を聞いて本当のことだとは思わないように(笑)。事実のように聞こえますが、あくまでエンターテインメントです。

------他の言語での講談では、喋り方や間の取り方も違いそうです。
南陽: 講談はリズムで楽しませるところがあります。リズムの最たるものが「修羅場読み(しゅらばよみ)」で、その修羅場読みを海外の言葉でしたかったんです。英語落語に比べても、講談はリズムという点で言葉の壁がより大きい気がします。英語講談ではその部分に挑戦しましたが、講談の楽しみはまさにこのリズムにあるんです。

------「ジャズ講談」を始められたきっかけを教えてください。
南陽: 漠然とラジオDJをやりたいと考えているときもあったくらい、音楽を聴くのが好きでした。ラジオ自体が好きだったと言うべきかもしれませんが。講談をしていると修羅場読みが非常に気持ちよいリズムで、いつか音楽関係とも一緒になって講談をしたいなあと考えていたところ、タイミングが合ってジャズ講談を始めました。

------ラジオDJもされていますが、講談の舞台で喋るのと比べてどうですか?
南陽: 両方とも好きですが、ラジオでは自由さが好きで、講談では空気感やお客さんの反応が好きという感じです。

------話をしたり作ったりするのは、子どもの頃から好きでしたか?
南陽: 人前で喋るなんて、まったく意識になかったですね。ただ、子どものときに電車のなかで踊ったりしてたって聞いたことがあります。まわりにいた人からなぜか栗をもらったらしいです(笑)。あと、小学校のときの国語の授業で、どこかの島の地図を見て物語を想像して書け、という課題があったんですが、ものすごい量を書いたようです。
 いまも場所としての書店が好きで、広々とした書店で本の題名なんかを見ていると空想が膨らみます。ただ、物語を空想するのは好きすが、作家には向いていないですね。別のスキルが必要なようです。

------宮崎県の都城市の特派大使をされています。
南陽: ある仕事で現地に行ってたんですが、それを別の町おこしの関係者が聞きつけられて、現地の歴史を面白おかしく聞かせてほしいということで話が進みました。結果的に、地元のひとも知らないような島津家の発祥に関する話などを広めています。歴史で町おこしをする、ということですね。

------今後のビジョンを教えてください。
南陽: 全国で八十数名しかいない職業ですから、まずは、講談をより多くの方に知っていただくというのが大前提です。講談の可能性は広いですから、ジャズ講談などでどんどん追及したいですね。
 近いところでは、2月2日に、『BURN CRASH RADIO!!』という、「講談」「ダンス」「音楽」「芝居」が「ラジオ」を中心に一つになったエンターテインメントの舞台イベントもします。大阪市立芸術創造館が会場ですので、もしそちらでお会いできる方はぜひ。



2011年12月8日 大阪にて

ジャズ講談の様子
 
ラジオ収録の様子
『BURN CRASH RADIO!!』
「講談」×「ダンス」×「音楽」×「芝居」が「ラジオ」を中心に一つになった新感覚の舞台。
2012年2月2日(木) 20時開演 (19:30開場)
大阪市立芸術創造館 3階 / 地下鉄谷町線「千林大宮」駅より徒歩10分
入場料/2,500円
出演/旭堂南陽 (講談・DJ)、hime (芝居/劇団バンタムクラスステージ)、Ikeda Kaoru (ダンス)、他
お問い合わせ/大阪市立芸術創造館 06-6955-1066
 
旭堂南陽(きょくどうなんよう)
講談師。1976年大阪生まれ。
高校時代にスウェーデンに長期留学をし、この時にスウェーデン人から受けた質問がきっかけで日本文化に興味を持つ。
大学卒業後の司法試験浪人生活中にたまたま見つけた新聞の3行広告で、講談に出会う。2001年、旭堂小南陵に入門。
2004年、ブラジルでポルトガル語での講談。2004年、アメリカ・ボストンで英語講談をし、その時の英語の修羅場読みの模様がNHK WORLDにて世界中に放送される。
和の講談、洋のジャズを融合した新しいエンターテーメント「JAZZ講談」を開始。2010年、宮崎県・都城市特派大使に就任。



ヴァンパイアの食糧倉庫 ~フライトナイト 恐怖の夜~

あ、私だ。試写室の暗がりで銀幕に目を光らせ、終映後も気になるシーンを自在に脳裏に投影。毎月1本の新作映画を捜査し、その空間的な特徴と魅力を炙り出す。こちらフィルム探偵。今年もよろしく願うところだ。
 スタートは、80年代を代表する吸血鬼映画『フライト・ナイト』のリメイクである。母と暮らす男子高校生チャーリーの隣家に、ジェリーと名乗る妖しげな魅力の若い男が単身で越してくるのだが、ヴァンパイアであることをチャーリーが突き止めてしまう。正体を知られたジェリーは激高し、チャーリーに容赦ない攻撃をしかける。彼は母や恋人を守れるのか。増殖する吸血鬼を根絶やしにできるのか…
 突き進む映画である。多少の物語的ノイズもなんのその。客から投げかけられる疑問なぞ抜群の推進力であっさり撥ね退け、ふいの笑いで緩急をつけながら、気がつけばクライマックス。近頃の吸血鬼ものの中でも一定の地位と評価を獲得するに違いない。
 ラスベガス近郊に広がる砂漠の中に造られた人工的で画一的な住宅地。どの家も単一メーカーの施工かと思えるほど酷似している。ジェリーの居宅も外から見れば他となんら変わりないが、やはり内部は様子が違う。家具は少なく殺風景で、窓は閉め切られ昼間でも薄暗い。果敢というべきか無謀というべきか、内部へと潜入したチャーリーが、寝室のクローゼット(映画史において幾人の登場人物がここに身を隠してきたことか!)の奥に隠し部屋を発見するシーンがいい。白を基調にした寒々しいロッカールームのようなスペース。中央の廊下から左右に鍵のかかる小部屋が並び、ドアにはそれぞれ覗き穴。中にはジェリーによって捕食された人間たちが収容されている。言わば、吸血鬼の食糧倉庫。圧迫感を与える狭い空間構成に、青白い蛍光灯。チャーリーの温もりある家とのコントラストが効いている。余談だが、そこに現れるジェリー役のコリン・ファレルときたら、「血」もしたたるいい男と言わざるをえない。

(c) 2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
絶賛上映中

野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ。翻訳家
FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。

茶が在る

が明けると いつも思う。
今年こそは「茶が在る生活」をしようと。

昨年末 京都の左京区にある築100年ほどの町家に居を移した。
少々不便でも 季節を否応無しに肌で感じる処である。

「茶が在る」の「茶」とは「茶の湯」である。
しかし 単に 茶道の稽古のことではない。
茶の湯の構造を 生活の中で理解していることを
「茶が在る」というのだ。

それは 靴を揃えること
    野菜をすみずみまで美味しく料理すること
それは 来客するだれかの為に しつらえをすること
そして より充実した時間をすごすこと
    それに心をくばること

そのような意識的に行っていた行動が 身に付き
無意識下におちたリズムのようなものである。

長い時間をかけて 巨大な様式となった「茶」という文化。
それをそぎ落としたときに見える「茶が在る景色」

本連載は 自分自身のコンテクストを紐解き 見いだす作業になるはずだ。

十二ヶ月 ゆるゆると おつきあい願いたい

河原尚子(かわはら・しょうこ)
陶磁器デザイナー/陶板画作家
京都にて窯元「真葛焼」に生まれる。
佐賀有田での修行を経て陶板画作家として活動を開始。
2009年、Springshow Co.,Ltdを設立。同年、陶磁器ブランド「sione」を発表。

留置場の落書き

察署の閉所後、廃墟のようになってしまった地下の留置場。そこに特別に入れていただき、撮影する事ができた。重厚な鉄扉や簡素なトイレなどが留置所感を漂わせているが、何よりもインパクトがあるのが、壁一面にびっしり書かれた落書きだ。単に名前を書いた単純なものから、出所までの日数を数えたと思われるカレンダーが書かれていたり、「二度とこない」と反省文のような文面があったり、龍の絵が描かれていたり、ある意味とても人間的でカオスな様子を非常に面白く感じた。

小林哲朗(こばやし・てつろう)
写真家
廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。

椿姫と柱

が明けた1月のある昼間。
椿姫はお気に入りの椿柄の階段箪笥に上体をまかせ、椿と戯れる姿をよく見る。

階段箪笥は柱と柱の間に配置されており、まるで絵画やカメラのフレエムの中に存在しているように見える。
柱の間・・・その空間は現離れした世界が広がり、限れた空間に美しいものを閉じ込めたような、言葉では言い表せないサディスティックな感覚に陥る。

今日も椿姫はいつもの箪笥に乗りかかり、伏し目がちに椿の花弁を「ひぃ、ふぅ、みぃ、、」と呟きながら遊んでいる。
私はその様子を柱と柱の真ん中・・・フレエムの外から眺め、満足して1月を過ごすのだ。

ミホシ
イラストレーター
岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。
抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。

第1回

 講談師
 旭堂南陽

第2回

 フォトグラファー
 東野翠れん

第3回

 同時通訳者
 関谷英里子

第4回

 働き方研究家
 西村佳哲

第5回

 編集者
 藤本智士

第6回

 日常編集家
 アサダワタル

第7回

 建築家ユニット
 studio velocity

第8回

 劇作家/小説家
 本谷有希子

第9回

 アーティスト
 林ナツミ

第10回

 プロデューサー
 山納洋

第11回

 インテリアデザイナー
 玉井恵里子

第12回

 ライティングデザイナー
 家元あき

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

連載2: 河原尚子 「茶」が在る景色

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

連載4: ミホシ 空間と耽美

第1回

 建築家
 藤本壮介

第2回

 書容設計家
 羽良多平吉

第3回

 漫画家
 羽海野チカ

第4回

 小説家
 有川浩

第5回

 作庭家
 小川勝章

第6回

 宇宙飛行士
 山崎直子

第7回

 都市計画家
 佐藤滋

第8回

 作家
 小林エリカ

第9回

 歌手
 クレモンティーヌ

第10回

 建築史家
 橋爪紳也

第11回

 女優
 藤谷文子

第12回

 ラッパー
 ガクエムシー

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

連載2: 澤村斉美 12の季節のための短歌

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美