野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

「麺」喰らうべし! ~女と銃と荒野の麺屋~

澤村斉美 12の季節のための短歌

夏木立の向こう夏木立あの光にじゃまされながら字を書いている

小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

巨大製紙工場

インタビュー クレモンティーヌ 氏

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

本でも多くの音源をリリースするとともに、アニメとボサノヴァを融合させたアルバム『アニメンティーヌ』などでも話題の歌手、クレモンティーヌ氏。彼女に、東日本大震災直後の来日で感じたことや新作についてうかがった。

------東日本大震災が発生したあと、すぐに緊急来日をされ、保育園や避難所を訪問支援されました。現地では改めて音楽の力を感じられたのではないかとおもいますが、どうでしたか?
クレモンティーヌ: 4月の緊急来日のとき、一番印象深かったのは福島の浪江町の方々の避難所でした。避難所の方々にどのように接して良いのかとても悩みましたし、外国人の私ができることなんて何もないことを思い知らされながら歌いました。避難所の方々が日本語で一緒に歌ってくれた時は、心が震えました…。これから何ができるんだろう、と思いながら日本を後にしたのです。

------ニューアルバム『バラエンティーヌ』をつくることになった経緯を教えてください。
クレモンティーヌ: 3月11日の東日本大震災が起こったあと、居ても立ってもいられなくなり、ギタリストのロブソンと一緒に世界中で知られている日本の曲「上を向いて歩こう」をフランス語でレコーディングしました。YouTubeにアップロードしたところ、あっという間に30万回以上再生されたのです。権利上の問題があって今は公開していませんが、この曲の持つ強さに誰もが心を打たれたのではないでしょうか。それから、日本で愛されている曲をフランス語でカバーするアルバムを作ろう、という話になりました。

------その際、ファンの方々からのリクエストで曲が決まりましたが、クレモンティーヌさんがもともと好きな曲などもありましたか?
クレモンティーヌ: 知らない曲がほとんどでしたが、どの曲もアレンジャーさんたちが素敵に仕上げてくれて、楽しくレコーディングすることができました。

------さまざまなアニメのテーマソングをカバーしたアルバム『アニメンティーヌ』が大ヒットしています。選曲はどのようにして?
クレモンティーヌ: いろんな曲のデモを録って、みんなで話し合いながら収録曲を決めました。宮崎駿の映画とそこで使われている音楽が大好きなので、「崖の上のポニョ」は収録したいなーと思っていました。アルバム『アニメンティーヌ』の中では『とんちんかんちん一休さん』『バカボン・メドレー』『ラムのラブソング』(アニメ『うる星やつら』主題歌)が好きです。

------一般的な「オシャレなボサノヴァ」というイメージに対して、「アニメとボサノヴァ」という組み合わせは実験的で、プロジェクトがスタートするまでは怖さもあったのではないかと思いますが?
クレモンティーヌ: 日本での音楽活動は、もう20年になりました。いろんなことを経験して、可能性を広げてもらったことには感謝しかなくて、何でも来い!という気持ちなんです。アニメのテーマ曲をボサノヴァで、というのはとても面白い試みでした。歌ってみると、歌詞もメロディもボサノヴァにとても良く合うものなんだなあと思い、仕上がりには大満足しています。

------『アニメンティーヌ』では英語やフランス語で歌っておられますが、アニメのシンプルな歌詞を翻訳するときは苦労があったかとおもいます。
クレモンティーヌ: アニメの世界観を残しながら訳をするのは難しかったですね。フランスでシャンタル・ゴヤというシンガーが歌っているように、子供向けの歌にならないように気をつけて言葉を選びました。

------フランス語のほか、英語、スペイン語、ポルトガル語、日本語、などでも歌っておられます。言葉によってリズムや歌いやすさ、気持ちの乗せやすさ、などに違いがありそうですが、どうでしょうか?
クレモンティーヌ: 一番歌いにくい言語は、実はフランス語なんです。音楽的な言語ではないので、スウィングしにくいんですね。スペイン語やポルトガル語、英語、そして日本語は、実は音楽にのりやすい言語で、私の音楽スタイルにもあっている気がしています。

------子どもの頃から世界各地を訪れておられますが、いろいろな都市を体感したことは、いまの仕事にどのように活きていますか?
クレモンティーヌ: いろんな国や都市を訪れたり暮らしたりして、様々な文化があることを知って受け入れることができたと思います。私が歌うことを仕事にしたのは、私が知っている中で世界一のジャズファンである父の影響が大きかったとおもいます。音楽の素晴らしさと偉大な音楽家たちのことを教えてくれたのは、私の父でした。

------日本でもとくに京都が大好きとのことで『京都市名誉親善大使』も務めておられますが、京都や関西で、とくに好きな場所や落ち着く風景などありますか?
クレモンティーヌ: 京都は特に秋が良いですよね!特に好きなのは、龍安寺とその石庭です。そして、京都の小径に迷い込んだり、お寺の階段をのぼったりしたときに見える風景にはいつも心を奪われますね。京料理はとても洗練されていて、日本の食文化の中心は京都なんじゃないかと感じています。

------好きな日本の小説は何ですか?
クレモンティーヌ: 日本文学のことを最初に教えてくれたのは父でした。最近読んだのは井上靖の「猟銃」です。繊細で緻密で、全てを見据えた作品だと思いました。川端康成や谷崎潤一郎の作品も大好きです。今ちょうど、小川洋子の作品を読み始めたところです。文学作品に描かれている昔の日本に想いを馳せながら読むのは至福の時間ですね。

------日本の映画では?
クレモンティーヌ: 映画では北野武の作品が好きですね。『アキレスと亀』はフランスではあまり紹介されない彼のコミカルな面が表現されていて、もっと彼の作品が好きになりました。伊丹十三の『タンポポ』も大好きな映画の一つです。人間の魅力をあますところなく描いた作品だと思います。

------今後のビジョンを教えてください
クレモンティーヌ: 直感を信じて毎日進んでいこうと思っています。8月3日発売のアルバム『バラエンティーヌ』、是非聴いて下さいね!



2011年8月1日 大阪にて

震災後の緊急来日で、とある保育園の子どもたちと合唱する風景
 
バラエンティーヌ
収録曲目 : 『ドリフ・メドレー~いい湯だな、隣組』、『ハイスクールララバイ』、『スーダラ節』ほか
2011年8月3日発売 SICP-3178
価格:2,730円(税込)
 
アニメンティーヌ~Bossa Du Anime~
収録曲目:『バカボン・メドレー』、『風の谷のナウシカ』、『サザエさん・メドレー』、『タッチ』ほか
2010年7月発売 SICP-2770
価格:2,520円(税込)
 
続 アニメンティーヌ
収録曲目:『アンパンマンのマーチ』、『ゲゲゲの鬼太郎』『宇宙戦艦ヤマト』ほか
2011年5月発売 SICP-3027
価格:2,730円(税込)
 
Clementine(クレモンティーヌ)
歌手。フランス、パリ生まれ。父親の転勤でメキシコをはじめ世界中に移住し、ボサノヴァや各国の音楽にふれる。1988年にシングル『アブソルマン・ジャズ』でデビューして以降、歌手として多くの音源をリリース。そのほか、NHK教育テレビジョン「テレビでフランス語」の毎月最終週に放送されている「Divertissement」に出演するなどしている。


「麺」喰らうべし! ~女と銃と荒野の麺屋~

あ、私だ。今月はあのチャン・イーモウがあのコーエン兄弟の出色のデビュー作『ブラッド・シンプル』(1984年)をリメイクしたノワール調の作品という事前の情報に、正直なところ私は少し力んでいた。田舎町の殺人事件を主題に、「固茹で」の演出で華々しく作家性を突きつけたオリジナルが、チャンの手にかかるとどう料理されるのか。きっとこの荒野の麺屋では、こってりと濃厚、どす黒いスープが湯気を立てているに違いない。目を皿のようにして捜査せねば…。フィルム探偵、いざ賞味!
 なんだ、この味は…。映像的技巧の粋を集めて煮込みすぎているはずなのに、なぜか澄み渡るスープの中で、キャラクター設定を演技に反映させすぎて硬直化しているはずなのに、しこしこと癖になる麺という名の俳優たちが戯れている。これぞ妙味!
 アメリカ南部を万里の長城の果てへ、現代から時代劇へ。オリジナルに並々ならぬ思い入れのあるチャンの選択は、換骨奪胎である。主要登場人物6名と一丁の拳銃。わずか90分のこの小さな物語に対して、どう考えても趣向を凝らし過ぎている演出。京劇風の色彩、昼と夜の鮮やかに過ぎるコントラスト。様式美を徹底追求した狙い過ぎのアングル。クラシカルな笑いのとり方(こんなに人が転ぶ作品が近頃あったか)。トゥーマッチなこだわりで味付けした細部のリアリティーがぐんぐん積み上がって雲を突き抜けると、それこそ長時間煮込んだ鶏がらスープがあるときふいに透明度を高めるようにして、得も言われぬまとまりの寓話へとトランスフォームする。チャンの離れ業としか言いようがない。嫉妬や強欲に駆られた人間たちが哀しきドミノ倒しに巻き込まれて命を落としていく様は重苦しいはずなのに、どういうわけか彼らが愛おしく思え、物語の行方が気になってまなじりを決しながらも、口元はついつい終始半笑いという特異な体験が保証できる。
 荒野の麺屋、チャン渾身の一本、熱いうちに映画館で「麺」喰らってほしい。

(c) 2009, FILM PARTNER(2009)INTERNATIONAL, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
7月23日シネスイッチ銀座
9月17日より 渋谷シネマライズ 梅田ガーデンシネマ シネ・リーブル神戸ほかで公開。

野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ。翻訳家
FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。イタリア文化紹介をメーンにした企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。

夏木立の向こう夏木立あの光にじゃまされながら字を書いている

い夏だった。いくつか旅もして、デジタルカメラで写真も大量に撮ったのだが、なにかの拍子にボタンを押し間違え、すべての画像が消えた。この夏だけで100枚ほどはあったと思う。おそらくこの夏以前の旅の写真も300枚ほど消えた。バックアップをとっておかなかった自分が悪いとはいえ、「ああああ……」となんともいえない声が漏れだすのをとめられず、しばらく立ち上がれなかった。こういう時、結局、「まあ風景は心に残っているし…」「本当に大事なものなら覚えているはずだし、覚えておくし…」と思い直して立ち上がるしかない。とはいえ。記憶はあまりあてにならない。すでに、いくつもの夏の記憶が重なって、どれがどの年のどこで見た風景なのか、曖昧模糊としている。夏の記憶は、するすると具体を失って、眩しいなあという感触だけがのこる。今年は、写真さえも消えてしまい、光の感触だけが、なんだかなあ、のこっている。

澤村斉美(さわむら・まさみ)
歌人。
1979年生まれ。京都を拠点に短歌を見つめる。「塔」短歌会所属。 2006年第52回角川短歌賞受賞。08年第1歌集『夏鴉』上梓。

巨大製紙工場

媛県四国中央市に入ると、煌びやかな工場の灯りが見える。近づいてみるとそれは巨大な製紙工場だった。製紙工場のプラントは階段との間に少しスペースがあり、特徴的な形をしているのですぐに分かる。堂々とそびえ立つ塔は周りの建屋の造りとも相まって、まるで城のように見える。周りにも巨大工場がひしめくこの一帯は、四国の新しい工場夜景スポットとして今後も注目を浴びていく事だろう。

小林哲朗(こばやし・てつろう)
写真家。保育士
保育士をしながら写真家としても活動。廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。

第1回

 建築家
 藤本壮介

第2回

 書容設計家
 羽良多平吉

第3回

 漫画家
 羽海野チカ

第4回

 小説家
 有川浩

第5回

 作庭家
 小川勝章

第6回

 宇宙飛行士
 山崎直子

第7回

 都市計画家
 佐藤滋

第8回

 作家
 小林エリカ

第9回

 歌手
 クレモンティーヌ

第10回

 建築史家
 橋爪紳也

第11回

 女優
 藤谷文子

第12回

 ラッパー
 ガクエムシー

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

連載2: 澤村斉美 12の季節のための短歌

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美