連載 第9回 2006年12月号

冬の世界に、響くオト♪ 〜各都市の音楽話〜


この冬の日本では、漫画やドラマ放送での人気もあり、例年の年末以上にクラシックが身近なものになりました。もちろん、年末は、クリスマス・ソングとともに、今年流行した音楽が、ジャンルを問わずあちこちで流される時期です。今回のテーマは、各都市の「音楽」。伝統的な音楽や楽器、ヒットチャートを賑わすイマの音楽、そして、もっと身近な存在としての音楽など、様々な音楽話があります。

世界各地から届いた、音楽話をお楽しみください


一級建築士事務所 スタジオOJMM
代表 牧尾晴喜



子豚と歌でLa vita e bella (Life is beautiful)!

アリッチャで人生を満喫中の人々

野村雅夫
イタリア
ローマ
大阪ドーナッツクラブ
(★サイトリニューアルしました)
ローマ近郊にアリッチャという小さな町がある。通称、豚の町。この何ともいたたまれないあだ名は、地元の名物料理「子豚の丸焼き」に由来している。週末の夜ともなると、「豚を食わせろ」と大挙して訪れるローマっ子たちでごった返すという。僕も行ってみることにした。子豚を出す店が立ち並ぶ目的地に辿りつくと、ただちに仰天した。正確には、耳が仰天したのだ。聴覚的カオスとでも言おうか、辺り一面音の洪水なのである。どこの店も屋外に長テーブルを配したものすごいせり出し方をしていて、そこに陣取った客たちが猛然と飲食し、歌を披露しているのだ。たとえば僕の前にいた20名ほどの団体は何やら一組のカップルを祝福している様子で、陽気な歌をひっきりなしに合唱している。そのお隣ではひとつの節回しを何度も繰り返しながら、ひとりずつ即興で歌詞を付けつつ歌っている。誰かを褒めたりはやしたり、猥雑な冗談を織り交ぜたり、それはそれは楽しそうだ。彼らにとっての歌は聞くものではなく、あくまでも参加するものである。うまい料理と酒があって、のりのいい歌がある。素朴ではあるけれど、彼らはその瞬間、生を確実に謳歌している。僕にはそう思えた。



意外にテクノ


ユゴさや香
ドイツ
フランクフルト
ドイツで音楽と言うと真っ先にクラシック音楽が思い浮かぶ。小学校の音楽室に飾られていた音楽家達の肖像画。中でも羊の毛を頭に乗せたようなバッハと、ぼさぼさ頭で上目遣いのベートーベンの印象は強烈である。そんなクラシックの巨匠を生んだドイツ。今でもその音楽性の高さは健在。
日本では意外に知られていないが、ドイツはテクノ発祥の地。元祖Kraftwerkを生み出し、毎年四月にはMaydayという世界的テクノイベントが開催される。
町に住む者にとって、より身近な存在がストリートミュージシャン。個人的に注目なのが、マイン河岸のフリーマーケットに出没するアジア系中年男性。外見はただの物静かなおじさんなのだが、マイクの前に立つと豹変。初めて見たときは、あまりの強烈さに我が目を疑った。歌っているのではなく、叫んでいる。関わらない方が身の為だ、と敬遠したくなる様なパフォーマンス。が、何度も聞いているとハマるのだ。毎回かなりお客を集めている。ライブをしていない時は、奥さんらしき人が出展している店で何食わぬ顔をしている所もポイント。その他にも町のあちこちで名も知れぬ逸材が、今日もパフォーマンスを繰り広げている。



オーストラリアで人気の音楽

出典:The Veronicas公式サイト

寺西悦子
オーストラリア
ブリスベン
♪Air Mail from Brisbane♪
オーストラリア特有の伝統音楽といえば、アボリジニのディジュリドゥという世界最古とも言われる管楽器を使った音楽が有名だ。このサウンドは、言葉では表現しがたい、大地の底から奏でられる、神秘的な音楽。
しかし、私が日常で耳にする音楽は、いわゆる洋楽である。同じ英語圏のイギリスやアメリカの音楽を始め、移民の多いオーストラリアでは、同じ民族の人たちが集まる場では、世界各国の音楽を聞くことも容易にできる。
そんな中、オーストラリアで、今若者を中心に人気のミュージシャンを挙げるならば、ブリスベン出身のThe Veronicas。軽快なリズムとテンポの良い若い女性の歌声。ブリスベンに来て以来、テレビやラジオでよく流れているポップ・ソングはこのThe Veronicasだった。21歳の双子の姉妹JessとLisaの歌声は、まさに、1年中快晴のブリスベンの気候にマッチする明るい感じの曲。彼女達は、今年オーストラリアで最高の音楽賞である「ARIA賞」でベスト・ポップ・リリース部門で勝利していることもあり、オーストラリア全体としての人気もうかがえる。
伝統楽器のディジュリドゥに比べ、街中で人気のあるThe Veronicasは、オーストラリア産であるが、そこからオーストラリア“らしさ”を感じることは難しい。しかし、これが今どきのオーストラリアで人気の音楽なのだ。



インド音楽がJapanに出会った

でも東京ではない風景…

豊山亜希
インド
ムンバイー
(旧名ボンベイ)

「娯楽といえば映画」の国インドでは、大衆音楽も新旧問わず、基本的に映画の挿入歌である。そのため、映画音楽が人々に与える影響は計り知れない。
「Sayonara」−インド人の誰もが知るこの日本語は、その影響力を示す代表格である。インド音楽特有の甲高い女声が「サヨナーラ〜♪サヨナーラ〜♪」と歌う、往年のヒット映画『Love in Tokyo』の挿入歌『Sayonara Sayonara(→聴く)』。この曲のおかげで、日本人を見たのは私が初めてという片田舎のおじいさんでも、「サヨナラ」と「オシン」(言わずと知れた日本のTVドラマ。インドでも大ヒットした)は知っているのだから、大衆文化の力とは恐ろしいものである。
 現在ヒットしている映画の挿入歌では、「Harakiri Kar(「切腹しろ」→なぜか転じて「忘れてしまえ」の意)」というフレーズが出てくる(→聴く)。最近ラジオから「ハラキリカル♪ハラキリカル♪」としきりに流れてくるので、気になって仕方がない。これまで通りすがりのインド人に「サヨナラ!」と言われていたのが、「ハラキリ!」になったら物騒だ…、と想像しては苦笑する今日この頃である。



故郷を想いつつ: ユレ・ザイダーバーン

松野早恵
オランダ
ユトレヒト
風を水に放す
「毎週、練習しているの。よかったら見に来て。」そう言って友人のユレ(写真)が連れて行ってくれた場所は、ユトレヒト市内の古カトリック教会。オルガン室に10人ほど若者が集まり、ソプラノ、アルト、テノール、バスの四声に分かれて、16世紀のミサ曲を歌います。発声練習ではおどけた調子で「パプリカ、パプリカ、パプリカ、パ〜プリカ♪」と、なんともオランダらしい(?)音階を披露してくれた彼らですが、楽譜を広げると一転して真剣なまなざしに。指揮者のリードに従って、ラテン語の多声歌曲をアカペラでこなします。私は、その美声に聞きほれるばかりでした…。
普段、大学院で音楽理論を研究しているユレ。子供時代から現在まで、彼女が手にした楽器は鉄琴、ピアノ、ユーフォニウム。並行して、合唱にも打ち込んでいます。プロの演奏家になりたかった訳ではない。心底音楽が好きで、楽器や歌を一生楽しみたい。村・町単位での音楽活動(特に吹奏楽や合唱)が盛んなフリースラント州出身のユレにとって、音楽は生活の大切な一部なのです。家族、幼なじみと話すフリジア語。故郷の海と風。彼女が歌い、奏でる音には、いつもフリースラントへの深い想いが込められています。



ヒップライフ



澤恵子
ガーナ
アクラ
ガーナで最もポピュラーな音楽といえば、ヒップライフ(Hip-life)。
ジャンベやザイロフォンで演奏する伝統音楽とはまた違った、いわゆる現代風の音楽。ラップが入ったり、英語の歌詞が入ったり、古くからあるハイライフという音楽にヒップホップの要素が入って形成された、聞いているだけで踊りたくなる音楽。バスの中でも大学の寮の中でも、街中でも、とにかくどこにでも流れている。そしてスピーカーの前では大人も子どもも独特の拍子の取り方で踊っている。ちなみに西アフリカ人は音楽の拍子を裏で取るということを留学中に発見した。日本人の取り方とは逆であるのだ。鼻歌も日本人と違う。本気で歌うのだ。日本でそんなことをすると白い目で見られるが、ガーナではそれが当然。堂々とボリュームを大にして歌う。
最近のお気に入りヒップライフは「マイペレーマイペジョ〜オォオ〜♪」 という歌。ついついシャワーを浴びながら鼻歌まで歌ってしまうぐらい好きである。 現地語である歌詞の内容は理解できないので、友達に尋ねるとこの歌の内容は「彼女の手に触れたら、彼女のおなかがおっきくなっちまったよぉ〜」という可愛いような情けないような歌。
やっぱりガーナ音楽を愛さずにはいられない。



Music


時空海賊 SEVEN SEAS

Simon Nettle
日本
大阪
My Amazing Life
One of the more visible aspects of Japanese culture when viewed from abroad is that of 音楽, both popular and traditional; in fact, it was through my exposure to Japan's musical offerings that fanned the initial flames of my interest in this country.
Historically, traditional Japanese music was generally abhorred by the west, as evidenced by this quote by Lourenco Mexia some 500 years ago. "Although they make use of pitch, neither going up nor down, their natural and artificial music is so dissonant and harsh to our ears that it is quite a trial to listen to it for a quarter of an hour.... They themselves like it so much that they do not think there is anything to equal it in the wide world, and although our music is melodious, it is regarded by them with repugnance."
I think, however, that it was simply the conservative ears of the early travelers that provoked such derision, as I am particularly fond of the traditional stuff. It also doesn't win me any cool points with my peers when I profess my affection for 演歌.
But on a more mainstream note, I love a number of current Japanese vocalists, but they are mostly female, which doesn't help much at カラオケ, as singing in falsetto gets old extremely quickly!



ご感想、ご批判、などは、お気軽にコチラまで。

牧尾晴喜   harukimakio*aol.com
*を@に変えてください。



★ OJMM.NET 研究・執筆のページ

★ OJMM.NET トップに戻る

■ 学芸出版社のウェブサイト