アサダワタル 日常再編集のための発明ノート

「掻くこと」から立ち上がる新風景

寒竹泉美の月めくり本

神無月本 :『せかいの街ネコたち』 ジェシー・ハンター編

野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

大いなる巡りの恵み ~ぶどうのなみだ~

真子 レシピでつながる世界の景色

スモークサーモンとポテトのサラダ(タスマニア)

風戸紗帆 建築素人のデザイン体験記

印刷の現場を体験するの巻

インタビュー 上田バロン さん

(聞き手/牧尾晴喜、原稿構成/風戸紗帆)

「独特のスタイルの作品を、広告や書籍カバー、CDジャケット、ゲームなどさまざまなメディアに提供しているイラストレーター、上田バロンさん。彼に、創作活動にまつわるお話をうかがった。

-------さまざまなジャンルへのイラスト提供をされていますね。最近は、大人気の「会話型心理ゲーム 人狼」のキャラクタービジュアルなどをはじめ、キャラクターデザインも手がけておられます。キャラクターデザインでは、イラストを描くだけの場合とどのように違いますか?
上田: イラストレーターとして一枚一枚の絵を描くのに比べると、キャラクターデザインでは、どんどんと動き出す奥深さがあります。絵を描く以前に、このキャラクターってどんな性格だろうとか、どんな言葉を喋るのかなぁっていうことも考えていくんです。キャラクターとされるものの、いろんな表情が見えてくるのが、キャラクターの奥深さになってくるんですよね。一枚の絵だけれども、そこにいろんな要素を追加していくことで、そのキャラクターが生きてくるというか、魂が宿るというか。当然、絵だけでは表現しきれないんです。
 たとえばラジオ局FM802の、「ビート&ハチマル」というキャラクターのデザインでは、プロモーションにも使いやすいように性格づけをしていきました。ちっちゃくて可愛いタコなのにじつは関西弁を喋るとか、おじさんの落語家みたいにっていう感じに。ウェブ上でメッセージをやりとりするコミュニティでは、このキャラクターの会話が「大阪のオッサン」みたいな喋りになってるんです(笑)。絵なんだけど画面の向こうに生きてるかもしれないみたいな、そういう感覚は、やっぱりキャラクターを使うからできるっていう部分が大きいですね。

-------ライブイベントへのイラスト提供など、基本的には「その場かぎり」となるお仕事も多くされています。最近では、ギタリストの布袋寅泰氏のロンドン公演で、ステージバックの映像を手がけられました。現場の雰囲気や「ライブ感」を想像しながらイラストを描くのはいかがでしたか?
上田: 布袋さんのロンドンでの移籍初ライブということもあり、日本というイメージを押し出したいといった流れがありました。東京で活躍する神風動画と組んでプロジェクトに加わり、資料を収集し、ヒアリングし、アイデアを固めていきました。彼は時代劇が好きですし、出演までしています。主題歌の提供なんかもしているし、今回のステージでも和風でサムライ的な要素を入れたいというのが、オーダーのなかにありました。単にサムライを描くだけじゃなく、雷神という雷の神様を要素として入れました。「エレキ」ギターの名士だし、ギターで独自のスタイルをつくりあげておられる方なので、雷の神を布袋さんに重ねるような形でキャラクターにしたんです。こちらから追加で提案させてもらった要素としては、布袋さんの名前にある「寅」という字から、雷光を発する「黒虎」という相棒も描き出しました。他に、物語を展開するわけではなくて映像だけなんですが、彼がいつも持っているギターにちょっと雷のシルエットをつけたり、刀がギターに変わるような設定をつくったりしながら、世界観をつくりこみました。このあたりはいろんな提案をさせていただいて、実際に演奏する彼がどれだけ気に入ってくれるかということですね。タランティーノ監督映画『キル・ビル』のテーマにもなった有名な楽曲を使うことも決まっていましたので、静と動がうまく行き交うような形にもしました。

-------ビジネス書など書籍のカバーもされています。バロンさんのイラストのアグレッシブな雰囲気と「ビジネス書」というのは意外性がありますね。
上田:ビジネス書って硬いイメージがあるので、若い世代の方も気軽に手に取って読みやすいように、ツカミとなる要素としてインパクトや意外性が求められているんだと思っています。CDとかだと「ジャケ買い」って言葉がありましたが、それと同じような感じかな、と。たくさんあるビジネス書のなかで、目に留めてもらうっていうひとつの広告みたいな役割ですね。

-------グーグルやナイキ、マクドナルド、ホンダ、コクヨ、などのさまざまな企業にイラストを提供されています。企業向けのイラストでは制約が多そうに想像しますが、いかがですか?
上田: ありがたいことにいろいろなジャンル向けのお仕事をいただいているんですが、どんな時も自分のスタイルを守ることを心がけています。つまり、僕のことを知ってる人が見ればすぐに分かるし、そうでない人が見ても印象に残るような、特徴的なイラストになるように意識しているんです。出版物や雑誌のカットなんかは名前が出ることが多いんですが、企業向けの広告では特別なケースを除いて、クリエーターさんの名前を紹介してあげようということは、なかなかありません。だから僕はスタイルを変えず、ひとつの方式をとっていることで、この絵をどこかで見たことあるとか、見た人にとって「紐づけ」ができるようにしているんです。だから、ジャンルやテーマによって方法を変えるということはせず、僕のスタイルを理解してくださった上で声をかけてくださる企業と、自身のスタイルを引き出しつつ企業のテーマを最大限にイラストレーションで表現するように心がけています。

-------イラストを描かれるときのデジタルとアナログのバランスは?
上田: 僕自身は、アウトプットでは完全にデジタルのみで制作するというスタンスをずっと続けています。基本的には、グラフィック制作ソフトのAdobe Illustratorを使って、マウスとタブレットペンで下絵をトレースせずゼロから一個ずつ描いていく感じですね。ごくまれに、ライブペインティングを即興でやったりするイベントなどで、キャンバスとか壁面に絵具で描くっていうこともあります。
 僕がデジタルにこだわる理由は、ひとつはクオリティーを上げていくことへのこだわりです。手描きで即興的に仕上げると、どうしてもちょっと粗い部分があるんですね。それがライブ感や手描きの魅力なんですが、後々まで残っていくものについては、どうしてももっと手をかけていきたいので。もうひとつ、作品を展開していく自由度や検証の問題もあります。仕事で大事なスケジュールの納期を前提に話をすると、たとえば手描きだったら、ちょっとしたところの色を変えるとかならできるかもしれないけど、全面的に青っぽい絵を赤っぽくしようってなったときに、時間がなければ検証や修正ができません。デジタルの場合だと、思い切って色も変えられるし最後の最後まで仕上がりにこだわれるところがあります。色だけじゃなくて、サイズを大きくしたり、キャラクターとして一部分だけを変えたり、後々の追加依頼の中で映像化やグッズ化などの拡張なんかも対応しやすいです。

-------子供の頃はどんな少年でしたか?
上田: 虫とか車とか電車とかを、幼稚園の頃からずっと描いていました。おじいちゃんとおばあちゃんの家ではオモチャがないので広告の裏に鉛筆で落書きして、家でも絵ばっかり描いてたわけですよ。そうすると、別にうまくはないんですけど、褒めてくれるんですよね。絵が好きだと言い切れて、描くのをやめなかったっていうのは、描いたら誰か褒めてくれて、喜んでくれたことが影響しています。小学生になったら、キン肉マンとか機動戦士ガンダムとかアニメやコミックを描いていました。ロボットの絵を描くと、休み時間には僕の前に列ができて、「これを描いて」とか「絵がうまいね」とか言われてて、絵を描くことが自分の得意な部分だと思っていました。それを漠然と将来仕事にしたいなということを考えたりしてましたね。あと、親父が公務員だったんですけど、いわゆる日曜画家みたいなことをやってて。油絵とか描いてるのをぼんやりと見てたし、影響は受けてたのかもしれないですね。

-------これから描いてみたいテーマは?
上田: 描いてみたいテーマというか、チャレンジというか、いまtumblrで連載をしている、『クマブツ』っていうキャラクター展開があります。仕事ベースではなくて、以前から友達だったDJ/物書きのヤマヒデヤ、雑誌編集をやっているタグチエイコ、の3人で立ち飲みながら話をしていて生まれたんです(笑)。ヤマさんは仏像好きで、僕がデビューのときから描いているクマと大仏を合体させたらどうなるのかという話で盛り上がったんですよ。そうやって生まれたのがクマブツ。ちょっとずつビジネスのラインに乗っけてより多くの人に楽しんでもらいたいなと思っていて、まわりの仲間や企業の協力で実現しようとしています。コンテンツ化してもっと魅力あるものにしていきたいと思っています。
 それと、これまで海外は過去に何度もチャレンジしているけど、まだまだ自分の作品の魅力っていうのを、世界の人たちに知ってもらうことで、もっと面白いプロジェクトが出てくるんじゃないかなと思っています。現在、来年に向けて信頼できるパートナーと一緒に、海外へ向けた活動を水面下で開始しています。絵を通して相変わらずさまざまな可能性にチャレンジできたらハッピーですね。



会話型心理ゲーム 人狼
上田バロンがキャラクタービジュアルを描く、幻冬舎エデュケーションより大好評発売中の「会話型心理ゲーム 人狼」。累計2万3千部販売!!!
ルール解説
 
ラジオ局FM802の、「ビート&ハチマル」
 
布袋寅泰氏のロンドン公演の関連画像
 
『英語貴族と英語難民』『やられたら、やり返す』など書籍カバー画像
 
CRECON(CREATOR CONVENTION)Vol.002
DJ&VJが演出するWacomタブレットを使用したデジタルライブペイントエリアとアーティスト&企業ブースの出展するモールエリアからなる大阪発のクリエーターイベント

日時:2014年11月2日~3日
開催場所:in→dependent theater 2nd.
詳細

※上田バロンは3日はライブペインティング出演の他に神風動画代表取締役の水崎氏とのクリエータートークショーに出演予定。
 
企画展 「虎・TORA・トラ」
書家の上田 普とイラストレーターの上田バロンとグラフィックデザイナーの泉屋宏樹が異業種同世代として組んだ野心的な作品展示を予定。

日時:2014年11月6日~ 11月16日
開催場所:アート〇美空間Saga
詳細
 
KUMA*BUTSU
ストーリーをヤマヒデヤ、キャラクターデザインを上田バロン、編集をタグチエイコが手がける異色作。
空から降ってきた不思議な生き物「クマブツ」が巻き起こす痛快★仏スト―リー!
tumblrにて毎週月曜更新で好評連載中!!
 
上田バロン
イラストレーター
デザインプロダクションを経て2000年から独立。東京と大阪で「STUFFED BEAR COMPANY」シリーズでデビュー。
作品のアイデンティティとしては、ボールドライン、アグレッシブを特徴としつつ、目が個性的なキャラクターイラストレーションを確立してきた。メンズからガールズ、キッズ向けなど、幅広いクライアントからオファーを受けている。
作品は主に広告や書籍カバー、CDジャケットのほか、企業、商業施設、ゲームなど国内外で幅広く展開されている。
 

「掻くこと」から立ち上がる新風景

回は、日常の風景に対する「視点の発明」といった体裁でお届けしたい。ぜひ、読者の皆さんにも、自身の身体にも注意を払いながら読んでもらいたい。

 奈良の皮膚科I医院の待合室で、ぼんやりと診察の順番を待っていると、前に座っている男の人が首の後ろを掻いた。しばらくすると、その隣の人も肘の裏を掻いている。さらに待合室を見渡せば、数十秒おきに誰かが身体のどこかを掻いていることに気付く。きっとみんな、無意識に掻いている。長く待ちすぎて寝ている人なんてその最たるもので、掻く間隔がさらに短い。しばらくして、僕自身も無意識に背中を掻いていたことを強く意識する。もちろん「痒いから掻いている」という理由が定番なのだが、アトピー性皮膚炎を持っている人は、もはやそんな原則論を通り越して、痒くなくとも掻くこと自体が習慣化されているのだ。それは実体験からもはっきりと言える。(ちなみに今だってキーボードを叩きながら数十秒ごとに足首や背中に手が回ってしまっている……)だから、自分のその習性、癖を理解している人は、よく爪を切る。そうしないと掻いたのちに傷ができやすく、それがきっかけで本当に痒くなったりすることを知っているからだ。

 演出家や振付家が、日常の所作―例えば「自然に歩く」「なんとなく腕を組む」―という動きを舞台に上げるとき、役者やダンサーに指示することは至難のわざだと言う。それらの動きは、舞台に上げるとすべて意識された行為へと変換される。つまり、自然な動きとして振る舞うという不自然な意識を抱えながらパフォーマンスをするわけだ。この訓練の先には、役者(あるいはダンサー)が「歩く」という行為や「腕を組む」という行為の意味について、根本から問い直すというプロセスが必要なのかもしれない。そこで行為の根源的な意味を獲得し、ようやく舞台において「自然に歩き」、そして「なんとなく腕を組む」ことができるのだろう。

 もし、皮膚科の待合室に舞台的な視線を投げかけるとすれば、無意識に掻くという行為を積み重ねつつ、しかし同時にこの行為について(治療上ではあるが)多大な自己研鑽をも行なってきた患者たちは、実は「掻くプロフェッショナル」と考えられるのではないか。みんなが思い思いに背中を、頭を、首を、膝を、肘を掻いているその行為の全景を意識したときに、立ち現れてくる「ダンス」。こういう見届け方をする第三者(と言っても僕の場合は「掻く当事者」なので、観客席にいるダンサーのようなものだ)が存在することで、「掻く」という行為に与えられる意味は途端に別のコンテクストへと横滑りし出すだろう。では、もし「掻く」が「パフォーマンス表現」なのだとしたら、その結果としての「傷跡=痕跡」はその行為を凝縮した「ドキュメント作品」なのだろうか。

 靴下を脱いで、右足のくるぶしにできた古い掻き傷を眺める。そこには一体どれほどの「掻く」が「収録」されているのか。そう問いかけながら、そっと撫でてみる。


(イラスト:イシワタマリ)

アサダワタル
日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト
1979年大阪生まれ。
様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。
著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。
ウェブサイト

神無月本 :『せかいの街ネコたち』 ジェシー・ハンター編

に飼われている動物のうち、最も自由を謳歌しているのは間違いなく猫だと思う。猫の飼われ方を初めて知ったときは衝撃をうけた。犬のように鎖につながれているわけではない。檻にも入っていない。家の中を自由自在に歩き回って、棚や机や座っている人のふとももにひらりと飛び乗る。家によっては、出入りも自由にさせている。ひとりで外に散歩に出かけて、ひとりで帰ってくる。途中で獲物をゲットしてきたりもする。彼らは人間の子供よりも自由である。いや、へたしたら大人よりも自由である。
 飼い猫だけじゃない。野良猫も自由を謳歌している。犬のように野犬狩りに捕まるわけではない。ネズミのように駆除されるわけでもない。うまくいけば可愛がられてエサをもらえて着々と繁殖していく。
 猫を見るたびに、よくぞここまで人間を飼いならしたものだ、と感心する。人間に警戒心を抱かせない小ささで、敵から身を守るのには十分な、ほどほどの大きさ。甘えているように聞こえる鳴き声。少々種類が違おうが、薄汚れようが、決してほかの動物にひけをとらない抜群の愛らしい容姿。綺麗好きで匂いがしない。おまけに!家で飼っている彼らは、座っていたら人のひざにのってきてゴロゴロと喉を鳴らす。寝ていたら隣にくっついてゴロゴロと喉を鳴らす。たとえそれが暖を取るためということが分かっていても、この憎らしい愛らしい動作には悶えずにはおられない。いったん猫を飼ってしまうと、すべての猫の奴隷と化してしまう(わたしのように)。


せかいの街ネコたち
ジェシー・ハンター編
本体1,500円(税別)
出版社: グラフィック社 2014年8月発行

猫の写真集はいっぱいあるけれど、この本のたまらないところは、世界中で自由を謳歌している猫の様子が分かるところだ。この本に出てくる猫は、その場所の主みたいな顔してくつろいでいる。あの街にもこの街にも、あの家にもこの家にも猫がいる。国は違っても、やっぱり同じように可愛がられている。世界中で猫が楽しそうに暮らしているのを見て嬉しくなる。開くたびに、にやにやしてしまう。
 猫を見ていると、こういう生き方もあるのだなあ…と思ってしまう。他の動物が、戦闘力やスピードに磨きをかけ、擬態や甲羅で身を守る方法を試行錯誤しているときに、猫は愛らしさに磨きをかけたのだ。そして、人間と共生し、自由を手に入れた。
 ああもう、猫め。なんかずるい。だが可愛い。
 猫のように愛されながら軽やかに自由に生きたいです。これからは猫を師と仰がせていただこうと思います。

寒竹泉美(かんちくいずみ) HP
小説家
京都在住。小説の面白さを本を読まない人にも広めたいというコンセプトのもと、さまざまな活動を展開している。現在は自身が脚本・出演・演出をする朗読劇(2014年12月14日上演)の準備中。

大いなる巡りの恵み ~ぶどうのなみだ~

ぁ、私だ。その土地でないと成立しないという物語がある。舞台を別の場所に置き換えてしまうと、魅力が減じたり機能不全を起こすということだ。この『ぶどうのなみだ』は典型的にそうだろう。北海道内陸の空知(そらち)。かつては海だったところでアンモナイトが出土し、近代以降は炭鉱が地域を支え、現在は北の大地有数のワイン生産地だ。大泉洋演じるアオと染谷将太扮するロクの兄弟が、父から受け継いだ畑でそれぞれ葡萄と小麦を育てている。アオはかつて指揮者を目指して家を出たのだが、やんごとなき理由から村に戻ってワインを醸造している。ある日そこへふらりと現れたエリカ(安藤裕子)は、どういうわけだかひたすら土を掘り続ける。妙ちきりんな設定だ。三島有紀子監督によれば、ある理由から「遠い過去に思いを馳せて土を掘る女と、近い過去と近い未来に縛られながら空を見上げる男」が出会うことによって、「土と空、過去と未来がつながって、再生し、今を精一杯生きられるようになるのでは」という発想から映画オリジナルの物語が生まれていったという。人生に振りかかる災厄に起因する心の痛みとそこからの再生を見つめてきた監督にしてみれば、空知はうってつけの場所だったし、逆に言えば土地が物語を導いたのだろう。
 監督の言葉を読む限り、多分に図式的だったので、オールロケで撮る映像のリアリティと合わないのではないかと心配していたのだが、彼の地のぶどう畑はそもそも日本というより欧州のようで、しかも物語展開や演技、そして衣装も音楽の挟み方も、これはもう寓話なのだと誰もが受容する演出で、やはり空知でないとなどと、こちらは行ったこともないくせに妙に納得してしまうのである。雪解けによって土地に蓄えられた水は、それを存分に吸い上げた葡萄の木の枝から涙のように滴り、ワインを造る人々の頭上からは雨が降る。寓話には教訓がつきものだが、こうした大きな循環の中に我々の生の営みがあることを映像的な叙情たっぷりに教えてくれる作品だ。観終われば自然とワインが飲みたくなるのは、映画の出来が良いことの証だろう。



『ぶどうのなみだ』

10月11日(土)全国ロードショー

監督・脚本:三島有紀子
出演:大泉洋、安藤裕子、染谷将太、田口トモロヲ、前野朋哉、リリィ、きたろう
音楽:安川午朗

2014年/日本/117分/スコープサイズ/カラー
配給:アスミック・エース



野村雅夫(のむら まさお)
ラジオDJ/翻訳家
ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。
FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00)
Inter FM (Happy Hour! / Mon., Tue. 17:00-19:00)
YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight)

スモークサーモンとポテトのサラダ(タスマニア)

スマニア産の食材といえばアトランティックサーモン。ヨットや木製ボートの浮かぶ川のほとりの小さな食材店でスモークサーモンを数切れ買って家路に向かうときの足取りの軽いことといったら。そのままでも美味しいけど庭で収獲したたっぷりのディルと合わせたポテトサラダもいい。ヨーグルト、塩にピンクペッパーで味を整えて。

真子
スケッチ・ジャーナリスト
タスマニアと名古屋でデザインと建築を学ぶ。専門はグリーンアーキテクチャー、療養環境。国内外の町や森をスケッチブック片手に歩き、絵と言葉で記録している。
ウェブサイト

印刷の現場を体験するの巻

回は、デザイン・印刷会社、大伸社さんへ行ってきました!大伸社さんでは商業印刷をはじめ、アート関係の図録・広報物など、様々なものを手がけています。たとえば、街でよく見かける美術展のポスターや、ユニークで可愛いチケットやDMなどがあります。また、東北地方の写真部に所属している高校生たちが撮影した写真で作成した(監修は写真家のハービー山口さん)チャリティ・カレンダーなどもあります。この夏の最新ニュースとして、「.g(ドットジー)」というアートショップを福岡にオープンされました。「.g」では紙もののステーショナリーや雑貨などがあり、フォーマルな美術展などだけでなく、より身近なグッズからアートを感じられるようになっています。


 さて、今回は印刷の現場を特別に体験させていただきました。印刷室には機械がたくさん並んでいて、大きな音をたてながら、せわしなく印刷物が刷られていました。機械はドイツ製の8色刷りで、インクを塗る部分がむき出しになっていたり、ローラー部分のまわりが透明になって外側から見えるようになっていたりと、印刷されている行程を目で追うことができました。初めて知ったことが2つありました。1つ目は、細かな点が集まって絵や文字が印刷されていたこと。一色のベタ塗りに見える箇所も、虫眼鏡のような特別なレンズで覗くと点だらけでした。そして2つ目は、印刷直後の紙の裏移りなどを防ぐため、紙の表面にパウダーをかけていたこと。新品の冊子にたまに見られる粉っぽさは、このパウダーがかかっているからでした。
 イベントなどのポスターはデザイン性が高く可愛いので、私は気に入ったものがあると持ち帰り、家の壁に貼って飾ることもあります。そういった美術系のポスターや駅構内で見かけるポスターがどうやってつくられているのかを実際に見るというのはとても珍しい経験なので、見学中は童心に返ったような気分でワクワクしてしまいました。これからも、きれいで可愛い美術系ポスター集めたいと思います!そして、ますます出版関係のお仕事がしたいと思うようになりました。

風戸紗帆(かざと さほ)
京都精華大学人文学部3年生(2014年4月に3年生になりました。)
文章を書くのが好き。柔道初段を持っている。ちなみに得意技は一本背負い。