アサダワタル 日常再編集のための発明ノート

部門変遷プロセスまですべて表記する 自治体職員の"ジェネラリスト名刺"

寒竹泉美の月めくり本

卯月本 :ようこそ建築学科へ~建築的・学生生活のススメ~

野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

ベルリン地獄めぐり ~コーヒーをめぐる冒険~

真子 レシピでつながる世界の景色

ラム肉とオルゾの焼きパスタ(ギリシア)

風戸紗帆 建築素人のデザイン体験記

シェアハウスを体験するの巻

インタビュー 寺田尚樹 さん

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

型の新たな可能性を切り拓いた『テラダモケイ』やアイスクリーム愛好家のためのプロジェクト『15.0%』などで広く注目を集めている、寺田尚樹さん。彼に、最近のプロジェクトや創作の現場での話をうかがった。

-------まずは『テラダモケイ』についてうかがいます。もともとは「建築模型用添景(人物や樹木・小物等)」としてつくられていますが、建築という枠を越えた大ヒットとなり、最近のシリーズでは「宇宙飛行士」や「桃太郎」「白雪姫」といったシチュエーションも登場しています。このプロダクトをつくられた経緯を教えていただけますでしょうか。
寺田: このプロダクトは「設計事務所の実務で使うアイテム」というイメージでスタートしたんです。たとえば、うちの設計事務所でもよく作っている住宅やオフィスの模型のための添景です。売るためのプロダクトっていう意識はあまりなくて、自分の事務所で使えれば良いし、他の事務所の人にちょっと譲ったりというくらいに考えて始めました。でも、展覧会なんかに出してくうちにいろんな人に興味を持ってもらえるという実感が湧いてきて、シリーズの4番目では冗談半分で、実際に自分で設計したわけでもない「動物園」の添景をやったんです。そうすると、建築の設計に携わってない人もふくめ、かなり反響がありました。それ以降は、わりと自由なテーマでやっていくことにしました。
 東京やニューヨーク、アムステルダム、バンコク、といった世界の都市をイメージしたものもあります。建築設計事務所でありながら、実際の建築物を設計せずに都市を表現するようなプロダクトができたら面白いなと。

------模型の各パーツをつくられる際に気をつけていることは?
寺田: スケールを「1/100」(現実世界を100分の1に縮小したという設定)に決めています。ただ、実際の寸法をそのまま100分の1にしてもそれらしくは見えないんです。ですから、いかにそれらしく見えるようにディフォルメ、つまり形を操作するかということに一番気をつけています。

------テラダモケイのシリーズ最新作はなんと「絵本」です。
寺田: 「桃太郎」とか「白雪姫」っていうのは皆さんご存知のストーリーだと思います。先ほどテラダモケイで100分の1に形をディフォルメするっていう話をさせていただきましたが、今回の絵本では物語のストーリー自体がディフォルメされているというか、オリジナルとは話がちょっと変わっているんです。皆の知っている古典的なストーリーに、テラダモケイ的な解釈を加えてみました。桃太郎や白雪姫の絵本と、100分の1のキットも発売しますので、キットの組み立てのひとつの参考として絵本を見ていただければいいかなと思っています。

------アイスクリーム愛好家のためのプロダクトやライフスタイルの提案である『15.0%』についてうかがいます。アイスクリーム用のスプーンなどをデザインされていますが、このプロジェクトはどのように始まったんでしょうか?
寺田: 富山の高岡にある鋳造メーカーからの依頼で、工場の技術を活かして何か新しいものを考えて欲しいということでした。当初は、たとえば箸置きやコースター、栓抜き、靴べら、といったものをデザインしてくれないかという話だったんです。ただ、わたし自身はこういったものを普段使わないので、実感が湧きませんでした。やっぱり自分が使う物でないとデザインできないなあということで、お店にあれば自分でも買って使いたい、あるいはそれを誰かにプレゼントしたくなったり人からもらったりして嬉しいもの、そういうものをいろいろと考えていくうちに、アイスクリームにたどりつきました。アイスクリームが嫌いな人って世の中にあまりいないと思うんですよね(笑)。アイスクリームっていうのは皆に愛されてる。

------『I'm Only Sleeping(アイム オンリー スリーピング)』などのモビールもデザインされています。
寺田: 元々は友人のデザイナーの企画で、世の中にはないプロダクトシリーズを、何人かのデザイナーが集まってつくりたいよねっていうところからはじまったんです。モビールをやりたいという風な話になって、その企画に参加させてもらいました。
 世の中のモビールって紙でできているものがほとんどで、メーカーも数えるほどしかありません。なので、今回は紙以外でモビールをつくろうということになりました。

------モビールのように「機能がないモノ」をデザインする機会というのはあまりないですよね。
寺田: そうですね、モビールを選んだ理由のひとつは、まさにその「機能がないモノ」をデザインしてみたいということでした。プロダクトデザイナーや建築家と呼ばれる人たちは、普段は何かの機能があるモノをデザインしています。たとえば家には住むための機能があるし、先ほどのスプーンであればアイスを食べるっていう機能が備わっています。でも、モビールには機能がないと言える。
 ある意味、機能があるものをデザインする方が簡単です。機能があるっていうのは、特定の性能を満たせれば、ひとまずはそのモノの存在理由となります。でも機能がない場合には、それが良いかどうかっていうのはかなり主観的・情緒的で、いわゆるスペックでは表せません。普段は機能があるモノばかりをデザインしているので、モビールのデザインはリフレッシュになりました。でもまあ、大変でしたね。

------寺田さんはイギリスのAAスクールに留学されていましたが、こういった海外での経験は、今のお仕事でどのように役立っていますか?
寺田: あまり特別に意識はしない方がいいと思っていますが、いろいろと役立っていると感じます。やっぱり日本人はどこまでいっても日本人なので、たとえば外国に行ったときに日本の文化から離れて外国人になろうとするようなことには無理があると思うし、どうやってもなれないし、なる必要もないと思うんです。それと反対に、外国に行ったときに自分が日本人であるということを無理にアピールする必要もないと思うんですね。海外での仕事では、日本人の感覚とかはやっぱり自然に出てくるとおもいます。あまり意識しすぎずに素直にやれば、その方がいい結果が出せるかなと。
 テラダモケイについても、日本人だっていうことを意識してやってたわけではないんですけれども、海外では「こんなものをつくるのは日本人以外には考えられない」とか「日本人のプロダクトの典型的なものだ」みたいなことを随分と言われるんですよ(笑)。

------寺田さんの子どもの頃や建築の道に進まれたきっかけについて教えてください。
寺田: テラダモケイにまさに表れているんですけれども、子どもの頃から、プラモデルをつくるのが大好きでした。手を動かして立体のモノをつくるっていうのが好きなんです。小学校から高校まで模型ばっかりつくっていて、進路を考える時期に大学見学に行ったら、教室に建築の模型がいっぱい積まれている建築学科にたまたま出会いました。

------今後、どういったデザインをしていきたいですか?
寺田: デザインは一人でするものっていうか、誰かが最終的に物事を決めて進めるっていうのが普通のやり方だと思うんですけれど、今後は他のジャンルの人と組んで、今風に言えばコラボレーションをして、何か新しいものをつくるといったことをやっていきたいですね。デザインって自分の個性や才能を掘り下げてくっていう作業なんですけども、自分一人で穴を掘ってても仕方がないなっていうところもあって、自分一人での穴の掘り方が分かってきたので、次は誰かと一緒に違う穴を掘ってみると、これまで想像できなかったことが起こるなと感じています。ファッションの人かもしれないし、映画の人かもしれないし、具体的にどういったジャンルかは分からないですけれど、違うジャンルの人たちとデザインをしてみたいという気持ちがあります。



1/100建築模型用添景セット No.41 マーキュリー宇宙飛行士編
photo : Kenji MASUNAGA
 
1/100建築模型用添景セット No.11 お花見編
photo : Kenji MASUNAGA
 
1/100建築模型用添景セット No.37 ロックスター編
photo : Kenji MASUNAGA
 
1/100建築模型用添景セット No.34 バンコク編
photo : Kenji MASUNAGA
 
絵本『1/100しらゆきひめ』
著者:寺田尚樹
仕様:A6判変型、上製本、カラー、24ページ、日英バイリンガル表記
定価:本体1,500円+税
 
絵本『1/100ももたろう』
著者:寺田尚樹
仕様:A6判変型、上製本、カラー、24ページ、日英バイリンガル表記
定価:本体1,500円+税
 
テラダモケイの絵本「1/100ももたろう」「1/100しらゆきひめ」出版記念展

代官山 蔦谷書店
会期:2014年4月1日(火) ~4月16日(水)
詳細は こちら

山口県立美術館
会期:2014年4月6日~5月11日、月曜日休館
会場:ミュージアムショップ

松屋銀座
会期:2014年4月30日~5月8日
会場:7階デザインコレクション イベントスペース
 
紙でつくる1/100の世界 テラダモケイの楽しみ方
寺田尚樹(著)
グラフィック社(2011/11/7)
 
15.0%』のスプーンのデザインは3種類。01の「vanilla」はいちばんオーソドックスな形。02の「chocolate」は角ばっていて、カップの角の部分もすくいやすい几帳面な人向け。03の「strawberry」は先がフォーク状になっていて、ソルベなどを掘削しやすい形。
 
I'm Only Sleeping
アイム オンリー スリーピング
種類:モビール
メーカー:mother tool
オフィシャルサイト:tempo
 
寺田尚樹(てらだ なおき)
建築家/デザイナー
1967年大阪生まれ。明治大学建築学科卒業。オーストラリア、イタリアなどでデザイン事務所に勤め、AAスクール(イギリス・ロンドン)ディプロマコース修了。2003年にテラダデザイン一級建築士事務所を設立し、2011年にテラダモケイを設立。
 

部門変遷プロセスまですべて表記する 自治体職員の"ジェネラリスト名刺"。

は別れと出会いの季節だ。僕はフリーランサーだが、色んな業種の人達とその時々にプロジェクトチームを組んで仕事をしているので、「4月から●●課へ異動することになりまして」とか、「新たに■□課に配属された※※と申します」などと入れ替わり立ち代わり挨拶を交わす。先日、ある関わっているプロジェクト内で人事に関する事務文書が貼り出され、「ああ、あの人もついに異動かな…?!」などと勝手にドキドキしたものだ。
 僕は、これまで文化(音楽や美術)を軸にしながら、徐々に自分が携わるアウトプットが楽曲やライブ、インスタレーションといったいわゆる「作品」的な単位から、多くの方と恊働しながら文化を使って社会を面白くするようなコミュニケーションプロジェクトといった「場」や「出来事」に変化していった。そのプロセスで刺激的だったことは、出会う人たちのバリエーションが飛躍的に広がったことだ。とりわけお役所勤めの人たちとの出会いの幅は象徴的だ。最初は文化事業担当の方が圧倒的に多かったのだが、市民恊働や地域政策、都市計画や住宅政策、社会福祉や就労、青少年育成や人権啓発、観光や地域産業、教育委員会の方々など、ある時から驚くほど多様になっていった。
 自治体職員のキャリア形成と専門性については、以前から様々な問題が指摘されている。多くの自治体で3~4年ごとに人事異動があり、以前の部門とは一見まったくかけ離れた部門に配属されるなんてことはざらだ。この背景には、「自治体職員たる者、あらゆる地域課題に対応できるような"ジェネラリスト"として人材育成されるべし!」というお題目があってのこと。経営学者の田尾雅夫氏曰く、そのためには「比較的質的に異なる職場を、できるだけ多く、それも短い周期で経験させる」必要があるということ。でも、一方「そんなことして、ほんまに多様な適応能力がついてますの?」とか「もっと同一部署にある程度所属して専門性を高めたうえで、他部署と連携していったほうがよくね?」みたいな反論があるのだ。僕もせっかく時間をかけて分り合えてきた担当者が「俺、明日からいないっすから!」ってことになって、「おいおい、また一から次の担当者と共有するのか…」と困ったことは何度もある。しかし、いきなりこの人事システム自体を改革するには時間がかかりすぎる。だから、せめていまのシステムを逆手にとりながら、どうせだったらジェネラリストっぷりを徹底してアピールする方法を模索するべきなのではないかと。
 そこで考えたのが、「以前、※※の部署にいました」という経歴を見える化するのはどうだろうか? ごく簡単には、新しく刷った名刺(余談だが、自治体職員って自前自腹で名刺作るんだよね。それも大変だな…)の裏に、これまで携わってきた部門歴を全部書く。そのことによって、これからパートナーとして組み合う人たちのバックグラウンドを把握し、今の所属部門の常識に縛られることなく、お互い共有できる知恵やアイデアを広く意識していくことに役立てることはできないだろうか。ちょっと短絡的すぎるかな。でもね、ジェネラリストを語るのであれば、「今はここに所属しているからその立場でしか発想できません」となっては、「専門性」を培う以上に重視してきたはずの「柔軟性」の意義が薄れてしまう。変遷のプロセスまで含めて売りだしていくことが、自治体職員の方々にも求められると思うのだが。


(イラスト:イシワタマリ)

アサダワタル
日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト
1979年大阪生まれ。
様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。
著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。
ウェブサイト

卯月本 :ようこそ建築学科へ~建築的・学生生活のススメ~

しわたしが今の記憶を持ったまま15年前に戻り、もう一度大学1年生から始めることになったとしたら、絶対に同じ道はたどれないだろう。小説家デビューするのは思ったほど簡単じゃないと分かっているから「どうせ進路なんて考えなくても20歳までには作家デビューしてベストセラー出してるから」と考える19歳には戻れないし、研究者という道が人生を賭けて這い上る茨の道だと知ってしまったから「院に行って研究者と小説家両立させ、ノーベル生理学賞とノーベル文学賞両方もらったりして」なんて夢想する22歳には戻れない。
 19歳に戻った元34歳のわたしは慎重に地道に無駄のない道を選び、その結果、効率的に最短ルートで小説家という冠をゲットできるかもしれない。けれど、医学博士で小説家という、訳の分からない経歴の今のわたしにはならないだろう。書けるものも興味の対象も、今とは全然違うだろう。どちらがいいのか分からないけれど、面白さで言えば、たぶん今のほうが面白い。若くて現実を知らないがゆえの無謀さは、笑えるほど愚かだけど、そこには面白い未来の種が潜んでいる。


ようこそ建築学科へ!: 建築的・学生生活のススメ
定価:1890円 五十嵐太郎/監修 松田達・南泰裕・倉方俊輔・北川啓介/編著
学芸出版社(2014/03/25発行)

 この本は、これから大学生活を送る若者に向けて書かれている。とても具体的なメッセージばかりで、進路から大学生活、恋愛やバイトのことまでたくさんの項目が設けられ、至れり尽くせりの内容だ。しかも、何ともクレイジーなことに、1項目につき1人の人間が執筆を担当している。つまり、ざっと数えて百人ほどの建築学科の先輩が登場していることになる。なんというにぎやかな本だろう。百人の建築家の百種類の人生がこの1冊につまっている。
 百人いれば、考えることも言うことも百様である……かと思いきや、ある1つのことに関しては、みんなが同じことを言っているのが面白かった。それは、大学生の間に、ハメをはずせ、外に出ろ、たくさんの世界を体験しろ、日常を大事にしろ、ということである。それが建築家として、将来役に立つというのである。

<ものをつくる人間にとって、ハメをはずす時期とか気概のようなものは必要な気がします。>
<デートをしろ!(中略)デートは建築に似ている。>
<料理をしない子に台所の設計は難しい。動き方も手順もコツも分からない。>
<クラブに踊りに行ったことのない人間が、いきなりクラブのデザイン等できるはずがない。>

 建築には使う人の物語が必要で、その物語を想像し、作り上げるためには、建築家自身の人間性や感性が必要になる。小説家と同じだと思った。生き方が仕事に反映される。無駄がない。だからわたしはこの仕事を愛しているし、きっとここに執筆している建築家たちもそうなのだろうと思う。
 ところで、いまさらのカミングアウトですが、わたしは建築コンプレックスなのです。なぜなら、部屋を片づけられない女だから。スタイリッシュな建物やおしゃれな部屋を見ると、どうせわたしが住んだら台無しになってしまうんだと、いたたまれなくなってしまう。それなのに、「ようこそ建築学科へ!」なんて本をどうやって紹介すればいいんだろう、と、途方に暮れながら読み始めたのだけど、読んでいるうちに、もし建築学科に入ったら……なんてことをわくわくと想像してしまっていた。
 わたしが建築学科に入ったら、部屋を片づけられないわたしのような人のための家を設計してみたい。なぜ部屋が散らかるのか、どうやったら負担なく片付けられるのかを人間工学的にも心理学的にも徹底的に研究し、物を散らかさずに住める部屋というものを設計する。それは部屋を整理整頓できる人には絶対に真似のできない仕事になるだろう。そしてその家は、結構需要があるに違いない。
 まあでも、わたしは小説で手いっぱいなので、誰かそんな部屋を設計してくれないかな。

寒竹泉美(かんちくいずみ) HP
小説家
京都在住。
家族のきずなを描くWEB小説「エンジェルホリデー」毎日連載中。
デビュー作「月野さんのギター」の映画化企画が進行中。

ベルリン地獄めぐり ~コーヒーをめぐる冒険~

ぁ、私だ。何とも瑞々しい快作の登場だ。ドイツの新星と評判のゲルスター監督が生み出した『コーヒーをめぐる冒険』は、彼の今後が楽しみで仕方なくなるデビュー作である。舞台はベルリン。大学を中退して(ただし親には内緒)、下宿先でモラトリアムな日々を送る20代後半のニコは、ある日恋人のマンションで目が覚める。彼女が寝ている隙にこっそりと帰宅しようとするが、あえなく失敗。よりによって別れ話となり、そこでコーヒーを飲み損ねる。飛び出した路上で運転免許証にまつわる大事な用事を思い出し、慌てて飛び乗ろうとしたトラムに乗り損ねる。こうして、ニコのツイてない24時間が始まる。
 ゴダールにしろ、トリュフォーにしろ、そしてジャームッシュにしろ、デビュー作はとても瑞々しくてシンプルな構造を持っているものだ。これもしかり。ニコは1日を通して実に20人もの風変わりな人物に数珠つなぎに出会っていく。ニコは基本的に受け手で、不条理かつコミカル(私たち観客から見れば笑えるということだが)な出来事に巻き込まれるというカフカ的な悲喜劇が展開する。端的に言えば、シュールなコントというか、都会のオフビートなスケッチ集という趣きで、当然ながらひとつひとつのエピソードは短い。自伝的な要素も強いだろう。ただ、これが侮れないのだ。言わば地獄めぐり。うだつの上がらない若者がパンチのきいた面々と出会うことで人生経験を踏んでいくのだが(これも私たち観客から見ればということで、当人にまだそんな意識が備わっていないのがよろしい)、その様子をモノクロの映像で見せることで、ノスタルジックな雰囲気を狙うのではなく、むしろどの世代の観客にも、そしてどの国の観客にも通じる普遍性を獲得している。
 一方で、物語にリアリティーを与えるのはベルリンの街並みである。築年数によって雰囲気も目的も異なるアパート、地下鉄、カフェ、映画撮影所、劇場、ファストフード店などなど。ベルリンは、東西の分断もあったことで、同じ街でもエリアによって景観が異なる。TVの観光番組ではお目にかからないようなアングルで切り取られるベルリンが、もの珍しさだけではなく、いつの間にか親近感を覚えさせてくれる。
 ちなみに原題はドイツ語ではなくて英語で"Oh Boy"。ビートルズの"A Day in The Life"の歌い出し「今日僕は新聞を読んだんだよね」に続く「オー・ボーイ」から取っているとのこと。この歌のモチーフともリンクする絶妙な引用であるし、BGMとして合わせるジャズがまた何ともハマっている。処女作らしいミニマルな作品でありながら、多角的に楽しめる今作。もしかすると「ゲルスターのデビューは俺はスクリーンで観てるよ」なんて10年後に自慢できるひとかどの監督にゆくゆくはなるのかもしれない。

(c) 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved

『コーヒーをめぐる冒険』

ドイツ映画賞6部門受賞
(作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞・音楽賞受賞)
バイエルン映画2部門受賞(男優賞・脚本賞受賞)
全国で順次上映中。
関西では、3月29日からシネ・リーブル梅田、4月5日から京都シネマ、4月12日から神戸アートビレッジセンターにて公開。

監督・脚本:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:トム・シリング『素粒子』/マルク・ホーゼマン/フリデリーケ・ケンプター/ウルリッヒ・ノエテン/ミヒャエル・グヴィスデク
原題:OH BOY/2012年/ドイツ/85分/ドイツ語/モノクロ
日本語字幕:吉川美奈子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:Lem


野村雅夫(のむら まさお)
ラジオDJ/翻訳家
ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。
FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00)
Inter FM (Happy Hour! / Mon., Tue. 17:00-19:00)
YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight)

ラム肉とオルゾの焼きパスタ(ギリシア)

ルゾという米粒型のパスタの上にローストラム(羊肉にオレガノと塩胡椒、オリーブオイルをかけ、にんにくと一緒にオーブンで焼いたもの)をのせる。ローリエ入りスープをたっぷりかけ、オーブンに放り込む。春の夜風を感じながら、ゆったり待つこと一時間ほど。大人数分の晩御飯を簡単に作りたい時には、ジュリアンの焼きパスタが一番。

真子
スケッチ・ジャーナリスト
タスマニアと名古屋でデザインと建築を学ぶ。専門はグリーンアーキテクチャー、療養環境。国内外の町や森をスケッチブック片手に歩き、絵と言葉で記録している。
ウェブサイト

シェアハウスを体験するの巻

回の続きで、私が大学入学を機に住み始めたシェアハウスでの生活について書きたいと思います!
 このシェアハウスは、一軒家ではなくマンションのような造りになっています。建物は4F建てで、大家さんのアトリエがあったり、大文字山が見える屋上があったりします。20程の部屋があり、個性的で愉快な人たちが住んでいて、毎日楽しく過ごしています。住人同士の中は良く、鴨川でお花見をしたり河原でバーベキューをしたり、はたまた屋上で五山の送り火を見たり。また、このシェアハウスには構造上クーラーを付けることができないので、夏の暑い夜には住人たちが自ずと屋上に集まってきます(笑)。そんなときは屋上で静かに寝そべり星を眺めたり、アイスを食べたりして暑さをしのぎます。
 内装は白を基調とした可愛らしいデザインになっています。キッチンの壁には家周辺の地図がペンキでドーンと描かれていて、その上から映画のポスターやイベントのチラシ、パン屋さんの名刺などをペタペタと貼って、情報掲示板のように使っています。
 私は一般的な「一人暮らし」をしたことがないので想像なんですが、こんな風に誰かと一緒になって自分たちの生活空間を好きにデザインできるのは、シェアハウスの醍醐味なのかなぁと感じています。それと、「一人暮らし」をしながらも「友達との旅行」をしている気分で、生活の中で繋がりを感じられるところが楽しいです。日常的に行われるキッチンでの井戸端会議や、「明日の着る服が決まらない!」の一言から始まるプチ・ファッションショーなど、普段のちょっとしたことを皆で楽しむのは、普通の一人暮らしだとなかなかできないことかと思います。
 すっかりシェアハウスの虜になってしまったので、これから先、普通の一人暮らしもできるだろうかと心配です(笑)。とりあえず大学にいるあと2年間は、シェアハウスの楽しさに浸って生活しようと思っています。



風戸紗帆(かざと さほ)
京都精華大学人文学部3年生(2014年4月に3年生になりました。)
文章を書くのが好き。柔道初段を持っている。ちなみに得意技は一本背負い。